愛とユーモアの社会運動論: 末期資本主義を生きるために

資本主義に乗り切れず、はみ出してしまった時に、初めて気づく現代社会の異様さを、本書は丁寧に説明する。しかし、そこにあるのは絶望ではなく、むしろ希望に満ちた眼差しである。

第一部「資本主義」では,拡大成長しなければ死んでしまう現代社会システムの来し方と行く末について論じている。驚くほど基礎的なレベルにまで埋め込まれた資本主義の精神を相対化する試みである。
第二部「抵抗」では,資本主義に抵抗する方法について,世界中の事例をひきながら論じられてくる。六章はそこにユーモアの精神で取り組むことが提案されており,非常に読み応えがある。
第三部「実践」では,筆者自身の取り組み,社会学カフェの運営と展開を紹介しつつ,大学の外での研究,物理的な場所の持つ力についての実践的意義が紹介されている。
筆者はこれらを通じて,愛とユーモアをキーワードに,社会をもういちどあるべき社会に復帰させよう、という。

個人的には、初めて読んだタイプの本であった。デフレ社会を経済的に読み解いたり、世代論で読み解いたりする本は沢山あるが、社会運動や資本主義に対する反論を通じて語られる本書は珍しい視点をもっているのではないか。

「資本主義という皆が当たり前のように信奉してしまっている考え」に対して、それはただの「主義」にすぎず、他の可能性もある、というと、左翼的に聞こえるかもしれない。しかし,本書で展開している「運動」は,所謂70年代の学生運動的な左翼運動のイメージからかけ離れている。人との連帯を大事にし,笑いあいながら、細々と生きる実践を通じて、未来を見つめている小さなコミュニティが、そこにある。

筆者は、自己が自己でなくなるような感覚を持つ時、周りに流されて成り行きで動く時を、自らが変化するチャンスと捉え、面白いと言う。この他者に、社会に対する自己の開放性こそ、初めの一歩として決定的な点ではないか、と思われる。