Yamadai.RというRの勉強会を定期的に開いているのだが,参加者が基本的にゼミ生なので,ゼミ生に対する統計の補講のようになっている。まあそれでもいいんですけど。そういう位置づけの会になっているので,授業では触れないやり方とか,新しい教え方を試す場にさせてもらっています。
普段の統計の講義(データ処理法)では,検定,回帰分析,因子分析,とオーソドックスな順で教えていくのだけど,いつも最後の方は時間が足りなくて,SEMまで言及できなかったりする。ということで,Yamadai.Rでは逆に,最初からSEMを教え始めた。回帰分析は説明したんだけど,lavaanパッケージを使ってやるのである。
重回帰分析を教えるときに,「独立変数間は無相関でないとねー」とか注意しないといけないが,lavaanを使っていると「このモデルは独立変数間に相関が考えられるよね,パスを足してみようか」という対応ができるわけで,わざわざ遠回りした上で「昔は苦労した」みたいな話をしなくていい。
さらに別の教育効果があることを先日発見した。
データとして,プロ野球選手の年棒とシーズン成績をここからとってきて使ってみた。打者のデータに限定して回帰分析につかうと,例えば「ホームラン一本打ったら年棒がいくらあがるか」という話ができて,学生もイメージしやすい。いい教材を見つけたと思う。
で,前回は潜在変数を仮定したモデル(因子分析)を教えていた。「安打数」「HR数」「四球数」「体重」を観測変数として,【腕力因子】を仮定し,「盗塁数」「犠打数」「体重」を観測変数とした【脚力因子】を仮定したモデルを描いてみたのである。このモデルが妥当かどうかは検証していくとして,まずこういう目に見えないものを背後においてみる,というお話なので,やってみて「おおできた」,「腕力と脚力が負の相関,なるほどな」みたいな実感を得た。いいかんじ。
そのあと,モデル修正指標を見てみると,腕力因子から盗塁数にパスを出すと良い,という事であった。ここでちょっと「?」となったのだが,学生が「腕を振るから走るんじゃないか」「スライディングのときに腕をのばすのではないか」「まさか逆立ちして走るのか」とか言い出したので,シメタ!と思ったのである。
【我々は,背後に潜在変数があると仮定してモデルを描いた。その潜在変数が「腕力」であるかどうかは,俺が名前をそうつけただけで,本当に腕の力なのかどうかわからない。なのに我々は,いったん腕力と命名してしまうと,まるでそれが実際に存在するかのように考えて,「腕力だとするとこのモデルはどういう意味があるか」と思考の向きが逆転させてしまう。それは(よくあることだが),よくないことだ。よくよく注意しなければならない。】
というようなことを教える好例となったのである。
これ,探索的因子分析から教えていると,ちょっと気付きにくいことなんじゃないだろうか。あるいは,教える側からは強調するのだけど,教わる側からするとイメージしにくい問題ではないだろうか。そもそも探索的因子分析から教える場合,共通性の推定方法とか,因子数の決め方とか,次々に新しい言葉,気をつける点が出てきてしまって,「因子の解釈と命名」まで注意が維持しにくいような気がするんだよね。これをいい例で教えられたと思ったわけです(間違えてくれた学生ありがとう)。
心理学の研究も気をつけないとそういうことになりがちで,自分で勝手に仮定した構成概念に関係する文言からなる質問紙をして,因子分析の結果,「ほら見ろ因子がでたぞー!」っていうのって,自作自演というか,マッチポンプというか,「てっちゃんの手品」になってるんだよね。
注)「てっちゃんの手品」というのは,愚息(てっちゃん)が「お父さん見てみて!いい?ぬいぐるみをこの箱の中に隠して・・・ジャーン!ぬいぐるみがでてきましたー!」という手品を披露してくれたことに起因する小杉ゼミ専門用語。
なので,SEMから教える,SEMだけで教えることを考え始めた。
回帰分析,重回帰分析,パス解析をへて潜在変数を仮定したパス解析,という順に教えていくと,流れが非常にスムーズだし,評価も適合度だけでいいので伝わりやすい。従来の方法でも,どうせ回帰分析,因子分析を教えたあと,構造方程式モデリングに言及するわけだし,しかも最後の一コマだけつかって,「今まではこういう方法があるって教えてきましたけど,これからはこちらに統合されていきます」と言ってもあまり感動してもらえない。今後はもうSEMだけでいいだろうし,いつまでも古典的な方法を従来の順番通り教えていく必要もないかなあ。学部教育なので「因子分析とか回帰分析とかは聞いたことがないです。構造方程式モデリングしかできません」という学生を作るのもちょっとな,と思っていたんだけど,これからはもうそれでいいかもしれない。
来年度のデータ処理法,シラバス大幅変更の予感,です。
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