非対称MDSのことをまとめておく。基本は、春の合宿セミナーでならったOkada and Imaizumiモデルと、千野先生に習ったHFMだ。
Okada and Imaizumiモデルの利点は、次の通り。
- 「非計量的MDS」であるということ。
- 原理もカンタン。対称部分で空間を構成し、非対称部分は円・楕円で表現する。
- 開発中とはいえ、Rで分析できるようになる予定。
第一のメリット。距離の大小関係だけを再現するので、社会的なデータには向いていると思う。順序尺度水準でデータが取れていればいいのだから。
第二のメリットは、言い換えれば、対称部分と非対称部分を区別して解釈することができる、ということだ。非対称を考慮した上での対称関係(距離関係)と、非対称情報の理解、という二段階解釈ができるのだ。極端な話、円や楕円を解釈せずに、対称のプロットだけで議論することも可能。非対称情報を誤差とは言えないので、それを加味して、対称情報を考えますよ、と言えるのだ。これはHFMと比較して考えると特徴的である。
第三のメリットは、実はまだ未完成段階なので評価できない。完成した暁には、岡田・今泉著「パソコン多次元尺度構成法」に含まれるすべての分析ができるパッケージとして供給されるらしい。CRANからDL出来る形にしてくれれば最高、そうでなくてもそんなパッケージがあるだけでも最高。今回のセミナーでは、まだ開発段階のものを触らせてくれた。
ただ、使ってみたところ、ひょっとしたらRの哲学とは考えを異にするスタイルのパッケージじゃないかな、と懸念。というのは、提供されたものはバッチファイルで、対話的にオプションなどを入力して行くスタイルなのだ。講師の先生からの又聞きだが、開発者である今泉先生は、その方がユーザーフレンドリーだとのお考えだそうだ。
私の考えでは、関数は多少フレンドリーでなくても、オプションで指定したことだけをしっかり返してくれればそれでいい。そうしたほうが、オプションに対する理解も深まる。開発の手間も省けるはずだ(対話的にしようとすると、どこかのステップで予想外の入力があったときにプログラムが止まる。あるいはそのエラーをハンドルさせねばならない)。Rの他の関数やパッケージをみていてもそうで、そこに学習の機会があるのだから。
いずれにせよ、開発は関数とバッチを分けて作られるだろうので、できた関数だけをユーザーが直接叩けばいいだけ。早く完成・公開してくれないかなぁ、と期待。楕円がかけないとだめ、というのはひょっとしたら面倒なハードルかも。
対する千野先生のHFMの利点は、次の通り。
- 数学的構造が簡単
- 対角項の情報を利用できる
- Rのコードも簡単
第一のポイントは、発展的なことを考えるとメリット。初学者にはデメリットかも。
HFMは、非対称関係を表現するのにユークリッド空間では足りないのなら、複素数の空間をつかっちゃえばいいじゃない、という飛び抜けた発想。オモシロイと思うんだけど、地に足の着いた(地球の重力に魂を引っ張られている)社会心理学者なんかに話すと、キワモノ扱いされる。なんでかなー。
この手法で第一次元だけ利用すると、複素空間なので図示するときは二次元になるのだけど(実数軸と虚数軸)、そこでの解釈はユークリッド的で良い、とされている。
また、複数の次元が出てくるので、その複数の次元(因子)を踏まえたデータの構造を考える事で、集団力学的な知見が得られる。私も長らく放置しているけど、集団力学をやる人間にとってはとても大事なポイントだろう。
ちなみに、Okada and Imaizumiモデルでは、対称部分と非対称部分をわけて考察できるとしたが、HFMでは対象がベクトルとして表現され、ベクトルとベクトルの内積で距離関係を表している。そのため、分離した解釈ができないし、結果の解釈の仕方も従来のMDSとは異なるので、そこが素人受けしないところでもある。
第二のポイント。Okada and Imaizumiモデルでは類似度行列の対角要素は利用しない。対象間の移動(ブランドスイッチ)なんかをデータにする場合はそれでもいいのだけど、心理学で対人関係を扱っていると、対角項に入るのは「自己」であり、これを無視するのはいかがなものか、といわれるかもしれない(ゲーム理論やってる人にはいわれないかもしれない)。HFMでは、対角項に入るのは原点からの距離で表現される。一目で、その再帰性の強さが理解できるのだ。
第三のポイント。これは第一のポイントとも関係するのだけど、Rがそもそも複素数や複素数での行列演算に対応しているので、簡単に関数化できる。私が書いたコードでよければ、ここにおいてあります。>http://www.kosugitti.net/labo/hfmR.lzh
公開するのも恥ずかしいくらい簡単。対称関係を実数、非対称関係を複素数にして、足しあわせた行列を固有値分解するだけ。HFMのその後の展開で、GSTATIS他のモデルがあるので、それらを含めたパッケージにすればもっと便利なんだろうけど、まぁ素人でも既に出来ているということです。
Saburi, S. and Chino, N. (2008)の最尤MDSがあれば、実は最強。Okada and Imaizumiモデルも含んだやつなのです。Saburi先生がRパッケージにして公開してくれないかなぁ。
いずれにせよ、最終的に全部Rでできるようになればいいなぁ!
誰か研究者に膨大な時間(と金)を提供してください!