アンジャッシュのコントは、革命だ。従来のその他多くのコントとは、一線を画している。
彼らのコントは、基本的に言語ゲーム、語の用法についての遊びだ。同じ言葉も、立場や状況、その人の持っている情報が異なれば全く違う意味になるということ。そしてゲームが即終了せずに、続くというおもしろさ。このアイディアが画期的である。
あるいは、彼らのコントは実体概念から関数概念への転換だ。オブジェクト指向のストーリー展開だ。関数の振る舞いは一定、しかし引数次第でいかようにも振る舞いうる。もちろんプログラマは、プログラムの振る舞いを制御しなければならないのだが、彼らのコントは許容できるバグを楽しむためのものだ。
ユーザーはただ楽しむだけで良いのに対し、プログラマはその設計に頭を絞る。プログラマはその世界の成立(マシン環境)を熟知していなければならない。そういう意味で、頭がよい。
著者、渡部健も、そういう頭の良さをもっている。
この本は、まさに、アンジャッシュのコントだ。
小説としては、処女作品にありがちな情景描写のつたなさが目に着き、さほど高く評価されるものではないのかもしれないが、帯にあるようにすぐドラマ・映画にできそうなほど完成度が高い。
アンジャッシュは、この高いレベルのエンターテイメントを、コントという非常に身近な媒体で提供してくれる、たいそうサービス精神にあふれた人たちであり、だからこそ見る側としては、贅沢をしている気分になる。
著者が小説の方で生きていくとするならば、ショートショート形式で量産する等、もう一工夫がいることは間違いないが、読後に本という新しいテイストで「贅沢さ」を味わうことができたことに感謝する。
余談だが、コミュニケーション研究をする人は、ヴィトゲンシュタインやミード、ベイトソンなどを触れると同時に、アンジャッシュも味わっていなければならないと思うのだ。それもまた教養。