(承前)
現在の性格心理学では「性格は変化するか」という問いだけではなく、出生からどのように性格が形成されるのか、という観点からも研究が進められている。トーマスは、乳児期の赤ん坊に9つもの気質を見いだしている。バルテスは、人の性格は生得的・遺伝的要因や親との生後の環境だけで決まるものとは考えがたいと主張し、3つの性格の形成要素をあげている。一つ目にそれは、「年齢段階的な影響力」であり、これは生活年齢や生物学的成熟などに関連している。二つ目は、「歴史段階的な影響力」である。これは時代や世代に関する出来事に関連している。三つ目には「非標準的な生活上の出来事」である。これは個人の生活史上の出来事の影響力である。また、これらの影響力は、「発達段階」によって異なった影響力を持つと考えられる。例えば、発達の初期には年齢的・成熟的影響が最も大きく、青年期には歴史的・時代的影響力、そして、成人期以降は個人的出来事の影響力が最も大きくなるのである。
性格はさまざま要因によって形成されるのであるが、私たちが性格を変えたいと思うようになるのは青年期になってからである。青年期にはいると、私たちは自己のあり方を客観的に、あたかも他者の目で見るように自分を見るようになってくる。この頃に、私たちは自己の否定的側面に気づくようになり、自分の短所や欠点を意識し、「自分の性格を変えたい」と強く望むようになって行く、とされている。だがこれとは別の指摘もある。
現代の性格心理学の多くが、個人の性格は青年期の終わりにはほぼ完成されて安定すると考えている。そして、一度できあがった性格は、それ自体が、変化に抵抗し、安定性を保とうとする働きが認められている。フロイドの「抵抗」の概念や、ロジャースの「防衛性」の概念、サリバンの「安全操作」の概念などもこのことを意味している。
これらの報告でわかることは、「性格を変えたいと思うようになるのは青年期であるが、そう思う頃には性格は変わらなくなっている。」という悲しい事実である。このことは、私たちが性格を変えようとしてもなかなか帰れないなどといったことを示しているのかもしれない。
(続く)