大学院はカウンターの内側です

学生時代はね、まず大学というところに慣れてもらわないといけない。こういう浮世離れした世界があるんですよ、そこでのマナーを覚えてね、ということで、初年次教育はお客さんとして学生を扱うところがあるわけです。

いわば、ファミリーレストランにきて、「ドリンクバーの使い方はご存知ですか」ときくような感じでね。学生は自分の食べたいものを自由に選んで、味わっていただければと思いますよ。
まずはいろいろな料理、調理法があるということを知ってもらわないとね。

その上で、研究室配属のころに、自分はどういう料理を作りたいのかをかんがえて、専門店に入ってもらうわけです。自分は寿司職人になろう、と思ったら寿司屋にはいりますわね。ファミリーレストランで寿司は頼みませんわね。
で、寿司屋では握り方を覚えて行くわけです。それはいずれ卒論という、一人前の料理を提供する側に回るわけですから。

まあでも、学部生は職業体験みたいなもので、これでおわり。

ただし、大学院生はカウンターのこちら側に入ってもらいます。大学院は寿司職人を育てるつもりで、お客さんに出せるレベルにするわけです。

その辺を意識せずに、大学院に進学すると辛いことになる。
お寿司が好きで、お寿司屋さんになったら好きなだけ食べられると思ったのに、握らされるの?という感じでね。
職人(教員)は「うまいもん食わせてやる」といいますが、それは客としての学生に提供するためではない。自分で自分の好きな料理が作れるようにしてやる、という意味です。

大学院に進学したら、急に教員が冷たくなったとか、「お前は何が作りたいんだ」とか言い出して困るとか。それは暖簾をくぐる前に知っておくべき、客の矜恃がない自分を恥じるべきシーンですよ。

学生が研究室訪問で、どこの研究室でもいいから見せてください、というのはおかしな話でね。あるいは臨床系なら誰でもいいです、とかいうのは大変失礼な話でね。それはまるで、「和食なら寿司でもうどんでもなんでもいいんです」と言ってるようなもの。仮に本心はそうでも、それを寿司職人に言うな、ということ。

冗談みたいな話ですが、指導教員との進路相談でそういうことを言ったり、もっと酷いセリフを言うことがあるのです。本人はカウンターの向こう側にいる客のつもりだから、寿司ぐらいなら食ってやるよ、みたいな態度でいることに疑問を感じてないし、寿司職人にたいして失礼だとも思ってないんだよな。

ということで、面接の時に指導教員は誰でもいいです、とか言ったら許さないからな。希望する指導教員の論文や著作の一つも知らないような、薄っぺらい嘘を許さないからな。

大学院はカウンターの内側です。