サピエンス全史,読みました。これは面白かったー!
歴史の本とは思えない切り口。著者の仕事が「マクロ歴史学」らしいんだけど,なるほどそういうジャンルもあるのかと思いました。なんせ研究対象がホモサピだからなあ。
人類にとって大事な歴史的変化は何か,と考えると,認知革命,農業革命,科学革命などであり,ローマ帝国が滅びたとかフランス革命があったとかいう革命は「ホモサピがなんかやっとるで」ぐらいのレベルでしかない。この冷めた感じが,読んでいて痛快。人間が歴史を紡いできたんじゃなくて,「小麦が自分のDNAを広めるために人間を利用してるんだ」とか「ミームが広がるために人間がいるんだ」ぐらいの感じ。人間を突き放しているような視点,価値観を超越して客観的に記述している視点が,心理学的・特に社会心理学的な観点を学ぶ上でも重要なポイント。
特に面白!と思ったのが19章の「文明は人間を幸福にしたのか」。彼が言うには,
- 人間の幸福が快楽を求めることにあるのであれば,ドーパミン,セトロニン,オキシトシンを求めるのが正解
- 人間の幸福が自己実現にあるのであれば,いかに「自分はちゃんとやってる」と思い込めるかが勝負
もうこの辺はこれで答えが出ちゃってるよ,と言う。
ただしこれらの幸福は限定付き。化学的な正解を求めるのは長続きするもんじゃないし,思い込みは思い込みでしかなく時自分を意図的に騙すのは難しい。であれば,合理的な正解は何かというと,仏教的なゴールにたどり着くと言うのね。つまり,煩悩からいかに解脱できるかになるだろう,という感じ。
これって要するに,知情意に対応しているように思うのね。知識で行くなら煩悩からの解脱になるし,情緒的なゴールが欲しいのなら化学になるし,意図・意思・人間性のゴールは思い込みになる。少なくともこういう三つの方向性があって,人が議論してるときは,参加者がどのゴールを求めようとしているのかを自覚したり見極めたりする必要があるなあ,と。議論して勝って気持ちいい!と言う人もいれば,己の思い込みの世界を壊して欲しくない人もいる。別に欲もなく知識を追い求めてる人もいるだろうし。
私のいるアカデミアの世界では,最後の種類の幸福を求める人でありたいと思うし,そう言う人が多い世界であって欲しい。一方で,世間一般的には第一,第二のゴールを求める人の方が多いんだろうなあ,とも思う。
いずれにせよ,人間はどこに行くのか,幸せとは何か,と言うのを一度すごく冷静に見つめるために,心理学の観点や態度を身につけるために,ぜひ学生諸君には読んでもらいたいなあ。