ベイズ塾の本棚2

これはベイズ塾アドベントカレンダー,12/19の記事です。

 

前回はごく初期のベイズ塾でのテキストとなった久保先生の緑本をご紹介しましたが,次に紹介するものがあるとすれば松浦さんのアヒル本で決まりでしょう。

12/04の記事にもあるように,次のステップとして我々のバイブルとなったのがこの本でした。ベイズ塾といいながら,確率分布のことも「へえそんなのあるんだ」みたいな状態だったし,解析はStan任せだったもんですから,Stanマニュアルとしても,モデリング入門書としても,アヒル本には本当に色々学ばせてもらいました(個人的には色々あって3冊買いました)。

勉強のルート,これだけ読んでおけば決まり!というテキストがあるわけじゃないところから走り出した我々でしたので,手当たり次第に読んでたというところもありますが,振り返ってみるとやはり緑本アヒル本怖い本犬4匹本,の4冊は「心理統計」を勉強するルートとして悪くないんじゃないかと思いますね(犬4匹本は自分たちが訳しているので,すわポジショントークかステマかと思われるかもしれませんが,勉強になったし内容は悪いものじゃないです。)。

心理統計,と括弧をつけたのは,もちろん我々が心理統計の出だから。卑下するわけではないですが,この領域には数学が苦手という人も多く,因子分析と分散分析だけで生きてきたし,もうそれでお腹いっぱいというひとが少なくありません。でも分散分析はもうオワコンだ,というセリフを聞いてずいぶん経つし,確かに色々なことを考えると正規分布の線形モデルの中だけで,米印がついたわっしょいわっしょい,と言ってられる時代はもう終わっているわけです。一歩先に進むなら,一般化線形モデル,混合分布モデルに行かなくちゃいならない。であれば,この辺を読んでいくのがいいんじゃないかなあ。

 

ベイジアンモデリングということになると,怖い本からのたのべい1たのべい2,あるいは少し顔を上げて社会科学のためのベイズ統計モデリング(この本にはいい愛称がない),へと進むのがいいかもしれません。

最後の一冊は渡邊ベイズをわかりやすく読み解いてくれる本としていいと思いますが,ベイズ統計というのは本当に色々な捉え方,立ち位置があって(詳しくはこちら),渡邊ベイズはその一つである,というのを踏まえておきましょう。実は心理統計にも口に出さない「暗黙の仮定」みたいなものがありますから,心理統計におけるベイズの使い方というのもまた,ひとつ特殊なものであるということを,改めて自覚するきっかけになるかもしれません(私はなりました)。どれが正しい・間違っているという真偽で別れるものではなくて,どの領域でどのような仮定・前提を持っているのか,どこまでが共通了解できるところでどこからが違うのか。ひとつひとつを丁寧にときほぐすべく言葉を紡いで,その上で共に進める方向を考えるもよし,それぞれの路線を行くもよし,です。理解し合うことが目的なら,喧嘩することはないんだよ。

暗黙の前提のようなメタ認知は,特に初学者には意識しにくいです。そこに数学的原理主義者から「それは間違っているぞっ!」と言われると(数学が苦手だという自覚がある我々としては),怯んでしまうこともあるでしょう。でも大丈夫。心理学には心理学のやり方があるし,間違っているわけではありません。科学者として,心理学者として,共通了解の領域と普遍性の領域を広げるために前に進むために,我々はもっとベイズ統計,心理統計を楽しめます。

 

今の私の関心事の一つは,これらを取り込んだ心理統計教育の大きなストーリーをちゃんと考えること,です。ベイズ塾で紆余曲折ありながら勉強してきたことを,一本のストレートな筋道にすることを考えるのが,初老の私の仕事かなあと思ったりしてます。

若い人たちはね,気にせずに,キャッキャうふふと楽しんだらいいんだよ。遊び心を止めるな。俺もまだまだ遊び心いっぱいですよ。

 

Enjoy!